新作「東雲」

2019/2/8 靴について

靴屋です。

この作品は、たまにこだわりの強い靴をアップしてますが、それをオーダーしてくださる方の提案で作りました。

名前は、 「東雲」

商品ページにも匂わすことを書いてますが、具体的に言うと、ホールカットは技術的にも大変難しく、革の伸びをかなり考えて革をカットしなければ、作ることができません。普通の木型だとそこまで考える必要がないのかもしれませんが、僕の木型だと、間違えるとつり込みの際に、伸ばしては、馴染むのを待ち、伸ばしては、馴染むのを待ち、と大変なことになってしまいます。
それゆえに、牛の半裁から取れる足数は、普通のパターンからは比較にならないほど、少なく、非常に希少な靴と言えます。ましてやクロムエクセルのようなロスの多い革は尚更です。

Uさんからご提案いただいた時は、あまりデザイン的に面白いとは思えず、いっちょやってみますか、という感じでした。
パターンの引き方も内羽根式に近い形で作り、縫製も単調で、面白さが無く、すいすーいとこなしておりました。

しかし、突然大きくそそり立つ壁が目前に現れたのです。
「つ、つりこめない。」
もともと硬い、パリッとした革を使っていましたので、おでこ靴のつりこみには苦しんでおりました。それでも、持ち前の負けん気の強さと職人気質で乗り越えてきた自負がありましたが、何度やってもボール部に大きな大きな皺ができてしまう。
これには、さすがの私もお手上げでした。もう一生作りたくないと思いました。

それからも、頭のどこかに引っかかっておりましたが、取り組むことができませんでした。
時は流れ、おでこ靴も割とどんな革でも同じペースでつり込めるようになった頃、Uさんから正式なご注文があったと同時に作りたいという衝動にかられました。
この衝動について、東雲の説明文を考えている時に、「メルー」という前人未踏のシャークスフィンを上る登山家たちの映画を見ました。
彼らも登頂に失敗し、いろんな困難を経て、再チャレンジするというシーンが描かれており、この無謀な行為を「理由は無い。」と述べています。

そこに山があったから、的な。
命をかけている彼らに失礼かとも思いますが、その衝動というのは少し僕にもわかる気がするのです。
作らないとおさまらない。頭からはなれない。そのことにとらわれてしまう。じっとしていられない。頭がモヤモヤしてしまう。この様な衝動にかられるのです。
その衝動こそが、何かが宿るということなのだと、最近振り返って思うのです。

クロムエクセルへの変更もあって、なかなかホームページに掲載することができませんでしたが、製作からも結局2年経ってしまいました。
計3年かかってしまいました「東雲」も、受注会などでは、販売しておりましたが、この度やっと日の目を見る事ができました。

この名前は、僕もUさんも大切な人を亡くしたばかりで、悲しみを経て、新たに踏み出すという意味を含んでいる気がしますね〜、なんて言いながら、決めた経緯があります。
そんなバタバタな頃で発表できずにいたこの「東雲」1年の時を経て、クロムエクセルで発表でき、感無量です。
ホールカットってもっとお上品じゃないと、と思われたら嬉しい????
えらい無骨なホールカットになってしまいました。
グッジョブ!